新しい風をつくる移住者 / 作家 林民和さん
作家の林民和(はやしたみかず)さんは、三川内焼の作り手として初の移住者。3年前に移住してからというもの、同じ三川内の若手とともに、新しくも心地のよい風を吹かせています。林さんのかわいがる猫たちが自由に出入りする、静かな工房でお話を伺いました。
白地に藍色の呉須(ごす)が主流の三川内焼の中で、カラフルな色と思わずクスッと微笑んでしまうような絵が目を引く、林民和さんの作品。身近な草花や愛くるしい表情の動物で構成された、鳥獣戯画を現代風にアレンジした世界観が、女性を中心に人気です。
時津町生まれ、小さい頃から絵を描くのが好きだったという林さん。大学に進学したものの、どうにか絵を仕事にできないかと、陶芸の道にたどり着きます。卒業後、陶芸の専門学校で基礎を学び、"京焼"の窯元に就職。その後独立し、よりよい作陶の場を求めて、ふるさとにほど近い三川内に移住を決意しました。
「肥前地区は陶磁器の産地がいくつもあるので、制作の環境が整いやすく、陶芸をする者にとって理想的な場所でした。なかでも三川内は技術・芸術性を追い求めてきた歴史の流れを受けて、作家寄りの視点を持つ"職人肌"の作り手が多いと感じます。静かな環境も相まって、作家として活動がしやすそうな地域だと直感しました。」
「実際に移住して驚いたのは、産地内の一体感です。他の産地では、窯元同士はライバルという構図が普通なのですが、三川内は世代を超えてみんなが同じ"作り手の仲間"といった空気。技術的なことも互いに惜しみなく教え合いますし、産地全体でよりよいものを作ろうという雰囲気がすごくいいなと思います。三川内の伝統とは少し違う自分の作風も"三川内焼"と認めて応援してくれる懐の深さは、移住者としてとてもありがたいですね。」
同じ若手の金氏さんと中里さんは、消防団活動や地域活動でも頻繁に顔を合わせる仲。作り手の先輩や地域の人たちとスムーズにつながり溶け込めたのは、地元出身の2人のおかげ、と林さんは語ります。
「恩返しと言ってはおこがましいですが、三川内の未来のために自分ができることは何かとよく考えます。当たり前のようですが、まずは1つ1つ自分の作品と向き合ってよりよいものを作り出すこと、そしてお客さまの満足度を上げていくことが大事なんじゃないかなと。これまでにやってきたアパレル企業や雑誌とのコラボのような活動も、三川内焼の名前を広く知ってもらうためには欠かせません。制作と販路拡大の両輪をうまく回しながら前に進んでいければと思います。」
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